犬は、犬より人の方が好き?
前回のブログに引き続き、ジョンブラッドショー氏の著作「犬はあなたをこう見ている 最新の動物行動学でわかる犬の心理」から、印象に残ったことについてお伝えしたいと思います。
犬は、その祖先であるオオカミが人との距離を縮め、そして一緒に暮らすようになる中で身につけてきた、他の動物にない特別な性質を持っています。言い換えると、そのような特別な性質こそが、犬を形作っているとも言えます。ですから、犬のそのような性質をよく理解することは、犬との暮らしをより良い、豊かなものとするためには欠かせないのだと思います。
犬の特別な性質のひとつは、犬どうしだけでなく、種が異なる人とも仲良くできるという点です。もう少し正確に言えば、犬は、生まれながらにして人を好きになる資質を持ち合わせていて、生後3週ころから始まる社会化期(感受期)に人と触れ合い楽しい経験を持つことで、人のことを好きになるのです。(ですから、逆に人と十分に接する機会がなくこの時期を過ごした犬は、人に懐くことが困難になるそうです。)飼い主と犬が触れ合うことで、犬にも愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌されることが研究で明らかになったということは、以前のブログでもご紹介したとおりです。
では、十分に人と接する機会を持って育った犬は、人のことをどれくらい好きなのでしょうか?
本の中では、1996年に発表されたある研究が紹介されています。生後8週間のときから兄弟とずっと一緒にいた7歳から9歳までの8匹の雑種が、住み慣れた犬舎からあたらしい別の犬舎に移されるとどうなるか。これらの犬たちは見るからに動揺した態度をとり、ストレスを受けているようでした。そして、兄弟犬と一緒にいても、ストレスは高い状態だったそうですが、これまでいつも面倒を見てもらっていた世話係の人がそっと近くに座ると、犬はそのそばから動かず、世話係が短くなでであげると、安心した様子を見せたそうです。新しい犬舎に移されたことで、血液中のコルチゾールというストレスホルモンの量は50%以上増えましたが、世話係がいることによってコルチゾールの量も正常値近くを示しました。この研究は、生まれてからずっといっしょに暮らしてきた兄弟の犬よりも、世話係に強い愛着を持っていることを示しています。
犬はそれだけ人に愛着を感じてしまうがゆえに、ときとして人間なしにはやっていけないと思うようなところがあるのだそうです。分離不安といって、家の人たちが出かけようとすると不安な様子になり、留守番をさせている間に家の中を散らかしたり、家具を噛んだり引っ掻いたりして傷つけたり、カーペットにオシッコをしたりする犬もいます。犬が人に頼る性質を本来持ち合わせているのだとしたら、飼い主から離れてしまう不安からストレスを感じ、分離不安を抱えることも、決しておかしなことではありません。ですから、分離不安から生じる問題行動への対処方法も、犬が持っている性質を理解していれば、叱るというのは間違いで、飼い主が戻ってくるという楽しい結果を期待させて不安を解消させることが正しい対処だということが理解できます。
進化の過程で人が関わることがなければ、このような特別な資質を持った犬という種は存在しなかったのだと考えると、人には犬のことを正しく理解して、幸せにしてあげる責任があるのだと感じます。
今年は世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって、当たり前だと思っていた日常が失われるなど、今まで経験したことがないような1年でした。我が家でも、楽しみにしていたゆうとの旅行もできずとても残念でしたが、家で仕事をする日が増えたことで、その分、ゆうと一緒の時間を楽しむこともできました。明日から始まる新しい年が、私たち人間と、その人間のことが大好きな犬たちにとって、良い年となることを祈っています。