犬は群れを作る? 犬とオオカミ
今、「犬はあなたをこう見ている 最新の動物行動学でわかる犬の心理」(ジョンブラッドショー著)という本を読んでいるところです。著者は人間動物関係学の第一人者と言われる人物で、犬誕生の歴史からはじまり、犬とはどのようなものであるか、どんなことを考えているか、何を感じているかなど、犬の持つ知力、能力について書かれているのですが、なかなか面白い本です。
これまでオオカミは、群れを作る動物の典型であり、その群れはリーダーによって厳しく支配され、階層的な構造(群れの中の順位付け)をしていると考えられていました。それ故、オオカミの子孫である犬も同じような性質を持ち、飼い主の家族を群れとみなしてリーダーの地位を狙っていると考えられていたのです。しかし、この従来の考えには二重の誤りがあるようです。
誤りの一つは、オオカミに関する初期の研究(この本が出版されたのが2011年ですが、その10年ほど前、つまり今から20年前までの研究)が、動物園などで人工的に造り出された群れを対象としていたという点です。従来、研究対象としていた群れには血のつながりの無いオオカミの寄せ集めであったことが多く、群れのオオカミどうしは、長く続いた信頼関係ではないライバル心と攻撃的な気持ちを持つ関係にあったそうです。それがGPSや機器の進歩によって野生のオオカミを追跡して観察できるようになったことで、オオカミの群れは、これまで考えられていたものと全く違うものであることが明らかになりました。野生のオオカミの群れは、普通、雄と雌のペアとその子供たちから成り、子供たちは翌年に次の子供が生まれるまで両親のもとにいて子育てを手伝うことも多いのだそうです。親をリーダーとする群れの中の結びつきは、支配ではなく協力する関係なのだそうです。
もう一つの誤りは、現代のオオカミと犬が同じ性質を持っていると考える点にあります。犬は何万年という長い時間をかけて人間との暮らしに適応してきており、その過程で少しずつオオカミとしての性質が失われ、人間ときずなを結ぶ力、他の動物も及ばないほど人間を理解できる力を身につけています。つまり、犬はオオカミとは別の「イエイヌ」という種としての性質を備えているのです。実際のところ、犬には群れを作る習性はなく、家族のメンバーの間の結びつきはあるものの、母親と子の間の結びつきが、より強いことがわかっています。
昔、しつけの本か何かで、飼い主がリーダーであることをわからせるために、飼い主が食事を終わるまでは犬に食べ物を与えてはいけないとか、飼い主がドアを出る前に犬を先に出してはいけないとか、犬が勝ったと思わせてしまうので、遊び終わったとき、犬におもちゃをもたせたままにしてはいけない、といったようなことを読んだ記憶がありますが、そのようにする必要は無いわけです。そして今でも時々、耳にする話として、犬は飼い主の家族の中で自分を順位付けしているというのがありますが、実際にはそれほど厳密な順位付けをしているわけではなく、例えば、犬が飼い主の家庭のお母さんの言うことは聞くが、お父さんの言うことは聞かないといったことは、それぞれの相手との関係を示しているに過ぎないようです。
何万年か昔に、突然変異により人間を怖がらないオオカミが現れ、人間のもとに留まって一緒に暮らし始めたところ、人間とオオカミの両方と同時に仲良くできるようになった、それが今の犬の始まりなのだそうです。